惑溺
あの電話のあとに、博美は大急ぎで私の元に駆けつけてくれた。
とりあえず暖かい所に入ろう、と泣きじゃくる私の背中を押して入ったコーヒーショップ。
いつもなら、カプチーノかアメリカーノ。なんとなくコーヒーは甘みの少ない物ばかり頼んでしまうから、カフェモカを飲むのははじめてかもしれない。
カップの上にほっこりと盛られた甘いクリームに口を付けると、その暖かくて柔らかい口どけに、強張った体が少しだけほどけた。
ゆっくりと。ぽつりぽつりと話す私の言葉を、博美は隣に座り、窓の向こうの夜の街を歩く人たちを目で追いながら静かに聞いていた。
「そっかぁ……」
ガラスに映る私の泣きはらした顔を見て、博美は怒りもせず呆れもせずのんびりと呟いた。