惑溺
 
「……ごめんね、博美」

「何がぁ?」

何が?と聞かれてなんて返したらいいのかわからずに、言葉に詰まった私の頭を、博美はペシペシと叩きながら笑った。

「ばーか。アタシは別に由佳に謝ってもらう筋合いなんてないよ」

私の髪を乱暴にぐちゃぐちゃとなでながら、泣きはらしてすっかり目が真っ赤になった私を馬鹿にしたように笑う。

「博美……」

「確かにさぁ、リョウくんカッコいいとか言ってたけど、半分冗談だからね?
別に本気で狙ってた訳じゃないし。
裏切ったとか抜け駆けしたとか思わないからさ、謝んないでよ」

カップの底に残った抹茶ラテの鮮やかな緑の泡。
それを一気に飲み干しながら、博美はいつものさばさばした口調で続ける。
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