惑溺
「それより、アタシがあの時ちゃんと由佳を引き止めてたらよかった」
「え……?」
あの時って、いつの事?
その言葉に私が首を傾げると、博美は困ったように笑った。
「ほら。前にリョウくんの店で偶然由佳に会ったじゃん。
アタシ会社の飲み会の前にちょこっとだけ店によった時。
その時、由佳すごい辛そうな顔してたから、ふたりになんかあるんだろうなぁとは勘づいてたんだけどさ」
博美、気付いてたんだ。
気付いていて、知らない振りをしてくれたんだ……。
「あの時、ちゃんと由佳の話し聞いてたら絶対リョウくんと付き合うの止めてたのになぁ。
なんか、変に口出して嫉妬してるとか思われたくなくてさ。
深く突っ込めなかったんだ」