惑溺
 
「……ッ!」

驚いて振り返った博美が、そのまま固まって口を押えた。
私たちの後ろに立つその人が、博美の反応に悲しそうに顔をゆがめる。
ガラスに映ったその状況を見て、私はゆっくりと振り返り、彼を見上げた。

「聡史……」

「由佳。今の話は、本当なのか?」

聡史は責めるでもなく、怒るでもなく、ただ悲しそうに静かに私に向かって言った。

「あ、あの、聡史さん……!?
今のは違くて……!っていうか、いつから聞いてたんですか!?」

なんとか誤魔化そうとしたのか、博美が慌てて私と聡史の間に入る。

「いいの。博美ありがとう」

私はその博美の肩に手を置いて、首を横に振った。
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