惑溺
 
「リョウは……」

「アタシの知り合いです!」

私の言葉を遮って、博美が厳しい口調でそう言った。
隣に座る私の腕を掴み、その手に痛いくらいに力を込めた。

「博美……?」

「前にアタシと由佳が二人で飲んでた時、偶然バーでアタシの知り合いに会っちゃって……」

そう聡史に向かって早口で言いながら、博美は私の腕を掴んだ指先にグッと力を込める。
食い込むように入ったその指先の痛みで、少しだけ冷静になった。


リョウは聡史の生徒だ。
聡史の受け持つクラスの生徒だ。


私がゆっくりと息を吐くと、博美が私をチラリと振り返り視線を合わせた。

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