惑溺
 

―――正直に言ってどうすんの。
あんたは全部正直に話してスッキリできるかもしれないけど
聡史さんはこれから3月まで、リョウくんの担任をしなくちゃならない。

自分の女を寝取られた男を前に、
聡史さんにどんな顔して教師をすれっていうのさ。

無駄に苦しめるだけなんだから、そのことは黙ってなさい。



ぎゅっと私の腕を握りながら、睨むように視線を合わせた博美から、そんな言葉が聞こえた気がした。

そうだ。
その通りだ。
全て正直に話して、自分だけ気がすんでも、そのあと私の何倍も苦しむのは聡史だ。

私の肩から力が抜けたのを感じたのか、博美の手がゆっくりと私の腕から離れた。

< 233 / 507 >

この作品をシェア

pagetop