惑溺
気付くと思い出に捕えられ、深い海底に沈み込んでしまったように胸の奥が重くなる。
慌てて水面に顔を出し呼吸をするように、なんとか顔を上げてリョウの記憶を振り払う。
そんな事を何度繰り返しただろう。
どんなに忘れようとしても付きまとう、私を見るあの冷たい黒い瞳。
私はゆっくりと息を吐き出し、恐る恐る空気を吸い込む。
そうやって、なんでもないフリをして、毎日をやりすごして。
少しずつ忘れていくしかないんだろう。
グラスに入ったウーロン茶。
それを震える喉に一気に流し込むと、少しだけ落ち着いた。
「そういえばさ、あの髪を縛るのってなんて名前だっけ?」
「え?」