惑溺
 

ぼんやりとしていた私に投げかけられた言葉。
その唐突な問いかけに、意味が分からず聞き返すと

「ほら、あのバーテンダーの女の人がしてるみたいな、布のやつ」

聡史はカウンターの中でシェイカーを振る女の人を指しながら言った。

「髪を縛るやつ?シュシュだよ」

黒い髪を束ねた茶色のシュシュを見ながら答えると、変な名前と、聡史は笑った。

「あれって腕に付けるの流行ってる?
うちのクラスの男子とかいっつも腕につけてんだよな」

「ふぅん。男の子が?女の子なら普通につけてたりするけど。
高校生って不思議な物が流行ったりするよね。
聡史も付けてみれば?一個貸そうか?」

なんて私が冗談で言うと、絶対嫌だよ、と鼻にシワを寄せた。

< 249 / 507 >

この作品をシェア

pagetop