惑溺
 
「俺、もう一杯ビール飲もうかな。
由佳もなんか飲めば?」

ビールのグラスを空けた聡史から渡されたドリンクメニュー。
そこにたくさん並んだカクテルの名前。

そういえば、あの時リョウが作ってくれたミルクの琥珀色のカクテルは、なんて名前だったんだろう。
結局教えてくれないままだった。
あのとろりと甘いカクテル。きっともう一生飲むことはないんだろうな。
そうぼんやりと思って、私は静かにメニューを閉じた。

「私は、いいや」

「そっか」

二杯目のビールを注文して聡史はメニューを私の手から取り、テーブルの端に寄せた。
雰囲気のいい店内は賑わっていて、あちこちから楽しげな会話や笑い声が聞こえる。
きっと私達もその楽しげな風景の一部になってるんだ。

「そういえばさ、前に偶然うちのクラスの生徒に会ったの覚えてる?」

急に聡史に言われて、私は驚いて咳き込みそうになった。


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