惑溺
 
「……え?」

「ほら、もうけっこう前だけどブライダルフェア行った帰りに、声かけてきたやつ。
もう忘れたか」

そんな事、忘れられる訳がない。
聡史の隣にいる私を蔑む様に見る、あの時のリョウの冷たい視線。


「あの時の西野って生徒。
この前、学校退学になりそうになってさ。
大変だったんだ」

「退学!?」

リョウが?

私の大きな反応に、聡史は驚いたように一瞬身を引いた後、頷きながら冷たいビールを飲んだ。

「あいつ学校に内緒でバーテンダーやってたんだよ。
いくらなんでも高校生がバーで働くのはまずいだろうって問題になってさ。
本人に事情を聞いたら、なんの弁解もせず『じゃあ、学校辞めるよ』って」

なんの躊躇いもなく冷たい声でそう言い捨てるなんて、いかにもリョウらしいと思った。

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