惑溺
 
聡史の話を聞きながら、リョウの暗く冷たい視線を思い出していた。

あの朝私に話したあの過去の話は嘘じゃなかったの……?
感情を押し殺して、なんでもない顔をして。
『今の話が嘘かどうか、先生に聞いてみれば?』なんて。
リョウは一体どんな気持ちで言ったの……?


「あいつが何にも執着しないですぐ諦めるのは、きっと育った環境のせいなんだろうなって。
きっと、小さい頃からいつも『お前のせいで苦労してるんだ』なんて言われてきたんだろうな……」


耳の奥に、リョウの感情を押し殺したような低い声が蘇った。




――――俺のせいにすんなよ


「……やめてっ!」



< 254 / 507 >

この作品をシェア

pagetop