惑溺
『そういえば由佳はクリスマスどうするの?
聡史さんと?』
博美の問いかけに私は静かに首を振る。
「別になんの約束もしてない。
クリスマスって言ったって平日だし。普通に仕事しておしまいだよ」
『何それ、つまんない!寂しい女!』
「ほっといてよ!博美だって同じでしょ?」
クリスマスに予定の無い寂しい女だと、お互いを笑い合いながら『それじゃあ、またね』と明るい気持ちで電話を切る。
ぷつりと回線が切れた途端、急にしんと静かになった部屋でひとり、冷めたコーヒーを飲み干した。
キッチンにコップを置こうと立ち上がると、視界に入った時計の針が10時を指していた。