惑溺
 
少しだけ心臓が締め付けられた。
いつも、リョウが仕事を終えて電話をかけてきた時間。





……今頃、きっとあの部屋で違う女の子がリョウの帰りを待っている。


『嘘を言って女を同情させて騙してる……。
そんな男、関わらない方がいいよ』


記憶に理性が侵食されそうになる時、いつもその言葉を思い出した。
いつかリョウの部屋の前で会った、あの蝶の様な女の子の言葉を、自分に言い聞かせるように心の中で何度も何度も繰り返した。

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