惑溺
 
いつもの時間帯とは違うせいか、それともクリスマスイブだからか。
地下鉄の構内はいつも以上に混み合っていた。

みんな楽しげに話をしたり、ケーキの箱を抱えて誰かに電話をしたり、幸せなクリスマスムードの中
私はひとり孤独な気分だった。

きっとリョウもこんな気持ちで、あの冷めた瞳でクリスマスの街を眺めているんだろうな。
なんてぼんやりと考えて、また少しだけ胸が痛んだ。

いつになったらリョウの事を忘れられるんだろう。
もし、リョウの事を忘れられたら、私は聡史を愛せるんだろうか。

そんな事を考えて、先の見えない息苦しさに目眩がした。
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