惑溺
無意識に見ていた向かいのホーム。
その視界の端に何かを捉えた時、急に心臓が大きく震えた。
突然体の奥が熱くなるような感覚に、戸惑いながら目を細めると、そこにはたった今心の中で思い描いていた人がいた。
背の高い、黒い髪の高校生……。
ホームに溢れるたくさんの人の中で、彼の姿だけがくっきりと浮かび上がる。
「リョウ……」
ただ、遠くから彼を見つけただけなのに、こんなにも動揺している自分に驚いた。
微かに足が震えるのは寒さのせいじゃない。
苦しくなる胸を抑えて、息を殺して向かいのホームにいるリョウを見つめた。