惑溺
はじめて見る彼の制服姿に、本当に高校生だったんだという驚きと、ちゃんと学校に通っているんだという安堵。
よかった。
退学にならずにすんだんだ……。
聡史から、リョウが退学になりかけたという話を聞いてからずっと気になっていた事がわかってほっとした。
今更そんな事、私が心配したって仕方ないのに。
リョウは私と同じ様に壁にもたれて、行き交う人を冷めた表情でぼんやりと見ていた。
反対側のホームにいる私に気付く様子もなく、目を伏せて地下鉄を待っている。
こんなに人が多い中、こんなに遠くにいる私に気付くはずがない。
そう思いながらも、ドクドクと音をたてる心臓の音は大きくなるばかりだった。