惑溺
 


――あの日、リョウの部屋の玄関で
『もう、二度と会わない』
そう言った私を、リョウは茶色のシュシュを持ったまま無言で見下ろしていた。


私は、リョウがどんな表情をしているのか確かめるのが怖くて、うつむいたまま彼の部屋から逃げ出した。




あの時、私が残していった茶色のシュシュが
今、リョウの左手首にある。


……どうして?


私は混乱して泣きそうになる。

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