惑溺
そう、自分に言い聞かせるように震える息を吐きながらきつく目をつぶった。
氷のように冷たい手のひらを、ぎゅっと強く握りしめる。
その時、賑やかなホームにもうすぐ地下鉄が到着する事を告げるアナウンスが流れた。
私はほっとして目を開ける。
そして、顔を上げた瞬間
何も聞こえなくなった。
リョウが向かいのホームから、私の事をみつめていた。
いつもの冷たい瞳ではなく、あの意地悪な表情でもなく。
ただ、真正面から私の事を見ていた。