惑溺

14






ずらりと並んだ簡素な灰色の扉の前で、私は一人膝を抱え踞っていた。




コンクリートの冷たさが足元から私の体温を奪って、身体中が冷えきって小さく震えていた。
チカ、チカ、と頭上で切れかかった蛍光灯が、微かな音をたてながら不安げに揺れる。
古いコンクリート製の教員住宅はひび割れや隙間だらけで、冷たい風が吹くたびに響く細い悲鳴のような寂しげな風の音。

私は膝を抱えて白い息を吐く。
薄暗いこの建物の通路は、何故だか外にいるよりずっと寒く感じた。
ひらり、暗い空からひとつ白い雪の粒が私の足元に落ちて、コンクリートの床を黒く濡らした。
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