惑溺
 
「この前偶然歩いてる時会ったんだけどさ、奥さんけっこう美人でさぁ。
加藤センセーより7歳くらい年下っつってたかな?
なんつう名前だったかなぁ。
なんか平凡な名前の女の人だったんだけど……」

もうずいぶん酒の回った真っ赤な顔で一生懸命名前を思い出そうとするその同級生に苦笑しつつ、酔いざましに水を勧めると

「あー!
なんでああいう美人が、真面目でつまんなそうな教師を選ぶかなぁ!」

と、木暮はかけていた黒縁の眼鏡を外して、ふて腐れながら水を一気に煽った。

「……本当にな」

まったくもって、同感だ。
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