惑溺
思い出すのは、いつも泣き出しそうな目で俺の事を見る顔。
そうか、結婚したのか……。
思わずバックバーの脇の棚を振り返って、懐かしさに苦笑した。
三年前のクリスマスイブ。
あの夜、雪の中で向かい合ったのが最後だった。
降りしきる雪の中、うつむいた由佳の睫毛にふわりととまった一粒の白い雪。
指で払ってやりたいと思っているうちに、雪の結晶は音もなく溶けてその瞼を濡らした。
乱れた服の間からのぞく白い首筋。
そこについた、他の男のものだという赤い印がやけに鮮やかで、三年たった今でも脳裏に焼き付いたままだった。