惑溺
 
それなのに、何故だか女達は俺にお金をかけはじめる。

きっと、最初は同情。
複雑な家庭を飛び出して高校に行きながら働く俺に、善意の気持ちで色んな物を買ってきたんだろう。

『ありがとう』

そう言って受け取ると、次はいい服を、いい靴を、いい時計を。
頼んでもいないのに。

まるで、金と物で関係を繋ぎ止めるように。

いつからか、想いは歪み狂いはじめる。

男に貢いでいる自分への負い目と、貢がなければ愛されないんじゃないかという錯覚。
変わらず傍にいるはずなのに、どんどん変わっていく女に戸惑いながら、『別になにもいらないから、そうやって貢がないでくれ』そう言うと
『他に、女がいるのね?』
隣にいて心地よかったはずの女が、まるで別人のような目で睨む。

いつのまにか愛情は歪んだ憎悪に変わってしまう。
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