惑溺
もし、普通の家庭で平凡に育っていたのなら、俺はこんなに歪んでなかったのかな。
幼い頃の記憶。
血の繋がらない父親に殴られるのが怖くて、ただ口をつぐんで日々をやり過ごしていた幼い自分。
親に愛されなかったその幼少期の代償が、女を引き付ける外見だったとしたら、なんてくだらない代価だろう。
別に女にモテなくていい。
ただ好きになった相手に、ただ愛していると
素直に伝えられる様な、そんな普通の恋愛がしたかった。
黙り込んだ俺に木暮は何かを感じとったのか、慌てて明るく笑った。
「まぁ、イイ男はイイ男なりの苦労があるんだろうな……。
そうだ、リョウも飲めよ!俺が奢るからさ、ほらほら!」
酔っ払いのクセに空気を読む木暮が可笑しくて思わず吹き出す。
「お前に奢られたくねーよ」
俺も、こういう優しい男になりたかった。