惑溺
「リョウ。
もしかしてその時の女の人の事、まだ好きだったり?」
木暮の遠慮がちな言葉に思わず笑った。
「まさか。もう三年も前の話だし、結婚したらしいし」
「そっか」
木暮はカウンターに置いていた眼鏡をかけ直すと、俺の顔をまっすぐに見つめて、歯を見せて笑った。
「リョウ、お前も人間なんだな」
「は?」
馬鹿にしてるのか?人間に決まってるだろ。
獣か何かに見えるか?
「いや、悪い意味じゃなくて」
険しい顔の俺に、慌てて言い訳をはじめた。
「だってお前高校の頃からやたら大人っぽくて冷めてたから。
すっごい近寄り難かったよ?
人間味がないっていうか……」