惑溺
 
「だから、お前でもツラい思い出があったり、情けない恋愛してるんだって思ったら安心した。
そういうの、どんどん人に話した方がいいよ」

自分の情けない話を、なんでわざわざ他人に話さなきゃならないんだよ。
不幸自慢なんて、馬鹿馬鹿しいだろ。

「リョウ、お前その顔は分かってないだろ。
人間、欠点があるくらいのほうが魅力的なんだよ。
だからお前も、他人に自分の欠点を晒してもいいんだよ」

自信満々に言う木暮に苦笑いしながら、はいはいと適当に返事をした。

「酔っ払いが偉そうに。もう帰れよ。とっくに営業時間過ぎてんだけど」

時計はもう朝の5時を指していた。

「うわ!ほんとだ、もう朝じゃん!
悪い悪い。お金、いくら?」

財布を出そうとする木暮に笑って首を振る。

「いいよ。女に振られたばっかの哀れな大学生からは金貰えない」
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