惑溺
「じゃあ、未来の教育者から迷える生徒に一言送るか」
店の扉に手をかけて立ち止まると、偉そうに俺を振り返った。
何が未来の教育者だ。
迷える生徒って俺の事かよ。
「リョウお前なぁ、次に好きな女が出来たら、ちゃんと『自分は血の通った人間です』って教えてやれ」
「は?」
何を言うかと思えば、酔っ払いが意味のわからない事いいやがって。
「辛い思い出もいっぱいある。情けない想いだっていっぱいした普通の人間だって。
そうすれば、絶対うまくいくから。
未来の教育者の俺が言うんだから間違いない」
満足気に頷きながら木暮は扉を開く。
「女に振られたばっかりのお前に言われても、説得力ねぇよ」
呆れかえった俺の声に、木暮は背中越しに手を振って扉の外へと出て行った。