惑溺
 
「何か飲むだろ?何がいい?」

手を洗い、軽くカウンターを拭きながら聞く。
一瞬、お酒なんていらないと言われるかと思った。
でも

「じゃあ、おまかせで」

由佳は着ていたコートを脱ぎながら、バックバーに並ぶボトルにみとれたまま微笑んだ。

何を作ろうかな……。

と、頭の中で考えつつ、グラスの入った棚を開けさりげなく話しかけた。

「そういえば、結婚したんだって?」

「え?あぁ、聡史ね……。
卒業して三年もたつのに担任の先生の話とかちゃんと伝わってくるんだ」

カタン、背後で由佳が椅子に座る気配がした。

「昨日、店に来た高校の時の同級生から聞いた」

クリスマスイブだし、ベリーニでも作ろうと棚の中からシャンパングラスを選ぶ。
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