惑溺
「先月結婚式だったんだよ」
「……へぇ」
感情が声に出ないように、なるべく素っ気なく聞こえるように、喉の奥から声を出した。
バックバーの隅の棚。
目立たないその場所に、三年間ずっとそこにしまってあった物を取り出す。
「今更……、こんなのもういらないだろうけど」
三年ぶりに手にしたそれは、記憶の中より少し色褪せていた。
「これ、返すよ」
「……え?
これ、どうしてリョウが?」
手渡したのは、あのクリスマスイブに雪の中で手放した、茶色のシュシュ。
それを由佳の手のひらにぽんと置くと、よっぽど驚いたのか由佳は目を見開いたまま固まっていた。
「先生に、渡されたんだ」