惑溺
あの雪のクリスマスイブの翌日。
学校で先生に呼び止められて、このシュシュを渡された。
『これ、お前のだろ?ちゃんと大事にしろよ』
俺にシュシュを手渡して、穏やかな微笑みを残して歩いていく後ろ姿に、俺は何も言えなかった。
あの雪の中で、このシュシュと一緒にくだらない独占欲も、未練がましい執着も。
全て、手放したつもりでいたのに。
それをこの男に笑顔で手渡されるなんて、あんまり惨めで滑稽で、笑うしかなかった。
手元に残ったこの茶色のシュシュを捨てる事も家にしまっておく事も出来ずに、なんとなく店の片隅に置いておく事にした。