惑溺
 

これ、由佳が忘れていった……?



まるでわざと隠くすように、カウンターの隅に置かれた新品の手帳。
そのシンプルな赤い手帳を手に取り開くと、最後のページに小さな几帳面な文字で書かれた11桁の番号。

思わずふっと声が漏れた。

赤い手帳と銀色の鍵。


まるで三年前と同じ始まりを繰り返そうとしてる二人。
溺れるように求め合い抱き合いながら、一度も素直に気持ちを伝えられなかった、幼すぎたあの頃の自分。
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