惑溺
その、からかうような言い方に、カッと頬が熱くなった。
まるで私が自意識過剰な女みたいだ。
確かに、少し警戒したけど!
その声にドキドキしたけど!!
悔しさと恥ずかしさで熱くなった頬を、静かに深呼吸を繰り返しながら手の甲で押さえるように冷やした。
ゆっくりとため息をついてから冷静な声で返事をする。
「わかりました。家はどの辺りですか?」
住所をメモしようと無意識に手帳を探して、その手帳が無いことに気がついた。
ああ、もう本当に。
なんでも手帳に書くのが癖になってるなぁ。
苦笑いしながら、近くにあった雑誌の表紙に彼の言う住所をメモする。
『わかりそうですか?』
「はい、私の家からなら地下鉄ですぐだから大丈夫そうです」
『じゃあ、後で』
電話が切れる瞬間、受話器の向こうで彼が小さく笑った気がした。