惑溺
 
「由佳、どうしたの?」

顔色が変わった私を見て、博美が不思議そうに手のひらを覗き込む。

「なに?この鍵、誰かの忘れ物?」

キーホルダーもなにも付いていない、なんの変鉄もない銀色の小さな鍵。


でも、これが誰の鍵か
どこの扉を開ける鍵か

すぐにわかった。


この鍵がどんな意味を持っているのか
彼がどんな気持ちを込めて、私のバッグにこの鍵を忍ばせたのか……。


私の心臓は大きく膨らんでは萎み、痛いくらいにドクドクと全身を震わせた。
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