惑溺
 
「由佳?」

心配そうに名前を呼ぶ博美に、私は深呼吸を繰り返しなんとか頷いてみせる。


「さっきね、ここに来る前にリョウに会ったの」

微かに震える指で鍵をきつく握りしめながらそう言うと

「えっ、リョウくんと!?」

カップルで賑わう店内に、博美の大きな声が響いた。

「もう……!本当に博美は声が大きいってば」

前もこんな事があったな、なんて三年前の事を想いながら思わず苦笑いした。
確か、はじめてリョウのバーに行った時。
聡史からされたプロポーズを博美に相談してる時だった。
あの時もこんな風に、大声で叫んだ博美の口を押えて慌てたっけ。


「だって由佳!そんな大事件なんで最初に言わないのさ!」

真剣な表情で私に詰め寄る博美を、とりあえずお店でようとなだめながら、ふたりでバッグを持った。
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