惑溺


「もういいや。今度博美から聞くから」

意地悪なリョウに聞いたってどうせ教えてくれないんだ。
私はもう諦めて、ため息をついて歩き出す。

「本当に信用されてないな、俺」

「そういえば、今度博美が聡史とふたりでお店に遊びに行くって言ってたよ」

私がそう言った途端、リョウは露骨に嫌そうな顔をした。
その子供のような反応に思わず笑ってしまう。

「そんなに高校時代の担任に会うのが嫌なの?
どうせ悪い事ばっかりしてたんでしょ?」

「それ、本気で言ってんの?
お前鈍すぎるだろ」

「ん?」


「担任に会いたくないんじゃなくて。
好きな女の昔の男なんて、顔も見たくないだろ」



「…………」


< 389 / 507 >

この作品をシェア

pagetop