惑溺
「……別に私、そんなにおっとりしてないもん」
博美のその口調に私は少し貶されたような気分になっる。
不貞腐れ気味に空になったグラスを手の中で遊ばせていると、横から博美の手が伸びてきた。
「十分おっとりしてるじゃん。すぐそうやってぼーっとして。
アタシ同じのもう一杯。由佳は次何飲む?」
博美は私のグラスを軽く持ち上げて、並んで座っていたバーカウンターの中に声をかける。
「あ、どうしよう」
一杯目のお酒でなんだか軽く酔っちゃった気がするし、ウーロン茶でも頼もうかな……。
「もしよければ、何か甘めのカクテル作りましょうか?」
メニューを開きながらソフトドリンクの名前を目で追っていた私に、カウンターの中にいたバーテンダーが博美からグラスを受け取りながら低く艶のある声で話しかけてきた。
聞いただけでぞくりと体が震えるようなその魅惑的な声に、思わず息を飲んだ。