惑溺
感情が出ないように、冷静にと思っていたはずなのに、簡単に振り回される私に、甘く低い声が耳元でくすりと笑った。
『わざとじゃないよ。鍵見つかってよかった。助かったよ』
―――嘘だ。
人を困らせて楽しんでるんだ。
この人性格が悪すぎる。
『明日返しにきてくれない?』
「明日は用事があるから無理!」
『用事って何時まで?』
「たぶん、10時くらいには……」
矢継ぎ早に質問されて、つい正直に答えていた。
次の日が仕事の日は聡史とのデートは10時くらいには家に帰るように別れる。
それはお互い負担をかけないようにいつの間にか決まったルールだった。