惑溺
 
 
「はぁ……」

学生時代からの友人だった聡史と木本さん。

きっと木本さんは聡史がそうやって真面目に女の子と付き合ってきたのを昔から見てたんだろうな。
そして、彼の誠実さを『つまんない』と一言で片づけて去って行く女の子も何人かいたんだろう。

交際イコール結婚。
その考えがおかしいとは思わない。真面目で誠実な聡史らしいと思う。

だけど、それを物足りなく感じてしまう女の子の気持ちも、なんとなくわかる。


煙草の灰を灰皿の上に、ぽんと器用に落とす木本さんの指先を眺めながら、ぼんやりと聡史の事を考えていると

「あ、もうとっくに定時すぎてんじゃん」

木本さんが灰皿に煙草を押し付けて火を消しながら立ち上がった。

「すっかり引き留めてごめんね。
松田さんこれからデートなんでしょ。早く行かないと」

そう言われて時計を見ると、もう6時を過ぎていた。
これから着替えて待ち合わせ場所に向かっても、きっと聡史の方が先についてそうだな。
別に少し遅れたくらいで怒る人じゃないからいいけど。

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