惑溺
博美にそう言われて、私はもう一度彼を眺めた。
薄暗いバーカウンターの中でも、不思議な存在感を放つ彼。
なんだか人を寄せ付けない雰囲気の人だな、と思う。
カクテルを作る横顔。
顎のラインから続く綺麗な首筋に逞しい肩。
緩くパーマのかかった真っ黒な長めの前髪の間から覗く瞳は、切れ長で冷たく鋭い印象で
綺麗な口元だけを軽く歪めて笑うその表情が、ぞくりとするほど色っぽかった。
歳は、きっと私達よりちょっと上くらいかな……。
落ち着いていて、でも静かな迫力がある感じ。
「確かにかっこいいとは思うけど、ちょっと冷たそうじゃない?」
「そう?そこがいいのに。
なんかさ、いかにもオスって感じがしない?
野性的な男ってすごいそそる」
そ、そそるって……。
そんなあからさまな言葉をうっとりと呟く博美に、思わず頬が火照った。
でも、野性的という表現は、確かに彼にぴったりかもしれない。
逞しく美しく、人を寄せ付けない。
野生で生きる獣みたいな男。
「アタシってさ、理性じゃなくて本能で惹かれちゃうタイプなんだよね」
博美は2本目の煙草に火をつけながら笑った。