惑溺
「それにしても、デートだったのに随分帰りが早いんだな」
ニヤリと笑いながら言うリョウを、私はびっくりしてみつめる。
どうしてデートだったってわかるの?
今日用事があるとしか言ってなかったはずなのに……。
「本当に細かく手帳に予定書いてんだな。
今日はデート。今週の土曜はホテルのブライダルフェア……」
いつのまにか赤い手帳を手に持ったリョウが、書き込まれた私のスケジュールを読み上げる。
「ちょっと!!勝手に見ないでよっ!」
人の手帳を勝手に開いて見た上に、予定を読み上げるなんて!
信じられない!!
私は慌ててリョウに駆け寄り、彼の手の中から手帳を奪い返して睨んだ。
「そんなに大事な手帳なら、無防備にその辺置いとくなよ」
慌てる私を面白がるように意地悪に笑いながら、リョウは棚からグラスを出した。