惑溺
 
カシャン。

金属と氷の擦れる音をたててシェイカーをカウンターに置くと、彼は私に向かって意地悪に首を傾げてみせた。

「そんなにカクテル作るのが珍しい?」

そう言われて、食い入るように彼を見ていた自分に気づき慌てて顔を反らした。

「ご、ごめん」

思わずそう謝った私を見て

「別にいいよ。そういう顔でみつめられるのはイヤじゃない」

リョウはふ、と微笑むように黒い瞳を微かに細める。


この人、本当に人に見られる事に慣れてるんだな。

女の人がリョウに惹かれていく気持ちが、なんとなく分かる気がする。
人を寄せ付けないような冷たい目をしてるくせに、ずっとこの人を見ていたい……、そんな気分にさせる雰囲気をもっていた。
気がつけば、勝手に視線が彼の事を追いかけてしまう。

それが人を引き付ける魅力ってやつなんだろうか。
< 97 / 507 >

この作品をシェア

pagetop