惑溺
カシャン。
金属と氷の擦れる音をたててシェイカーをカウンターに置くと、彼は私に向かって意地悪に首を傾げてみせた。
「そんなにカクテル作るのが珍しい?」
そう言われて、食い入るように彼を見ていた自分に気づき慌てて顔を反らした。
「ご、ごめん」
思わずそう謝った私を見て
「別にいいよ。そういう顔でみつめられるのはイヤじゃない」
リョウはふ、と微笑むように黒い瞳を微かに細める。
この人、本当に人に見られる事に慣れてるんだな。
女の人がリョウに惹かれていく気持ちが、なんとなく分かる気がする。
人を寄せ付けないような冷たい目をしてるくせに、ずっとこの人を見ていたい……、そんな気分にさせる雰囲気をもっていた。
気がつけば、勝手に視線が彼の事を追いかけてしまう。
それが人を引き付ける魅力ってやつなんだろうか。