惑溺
 
リョウはシェイカーのトップを外しグラスにカクテルを注いだ。

「どうぞ」

差し出されたのはぽってりと厚みのあるタンブラーに入った、柔らかな淡い琥珀色のカクテル。

「ありがとう……。
私ミルクを使ったカクテルってはじめて飲むかも」

恐る恐るグラスを近づけると、濃厚で甘いコーヒーの香りとほのかにアーモンドの香り。
アルコールぽくない甘い匂いに少し安心してグラスに口を付ける。

それは初めての感覚だった。
とろり、とまろやかで甘くて、でも深みがあって。

「美味しい……!」

一口飲んだ私がそう声を上げると、それまで人を観察するかの様に冷静な瞳で見ていたリョウが、目を細め優しく笑った。

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