近いようで、遠い存在のキミ (完)
ネガティブ入っちゃダメだ…。
違う話して紛らわせよう。
そして、今だけ…少しの間だけでいいから、このままでいさせて…。
「そういえばね、この前、ゆうくんが出てた映画のメイキング観たの。…ゆうくんて、カメラが回ってない時も演技してる?」
「え?」
「そこには私が知ってるゆうくんの姿はなかったから…ハルカしかいなかった」
「―――…」
感じていた違和感。
仕事中だし、そんなものかなって思ってたけど…
いくら演技が好きだって言っても、カメラが回ってない時くらいは自分に戻るものじゃないかな、って。
ゆうくんが心休まるのはいつなんだろう?
素直に自分でいれるのはいつなんだろう?
そう思った。
「今は…私と話してる時は、ちゃんとゆうくんだよね?そのまま、素のゆうくんでいれてるのかな…って…!」
ゆうくんの腕に力がこもった。
「……初めて。そんな風に言われたの」
『初めて』っていう言葉に、ドキッとする。
深い意味なんて、ないはずなのに。
「―――…わ、私、観察しすぎ、なのかもねっ」
照れを隠すように、アハハッと笑う。
「でもね、それ観てから、役者さんはみんないつも演技していなきゃいけないのかなって、自分の気持ちを出せるのはいつだろうって思うようになったの。それが役者魂なのかもしれないけど」
「……うん」
「……って、それだけ!私、変なこと考えてるよねぇ?」
「―――…。やっぱ…」
ゆうくんが口ごもる。
「いや、うん、りっちゃんっておもしろい」
「………」
すごーく嬉しくない…。
だって…
「…変な人って意味で、だよね?」
「うん」
ゆうくんは即答する。
やっぱり。
よく友達にも『変に考えすぎ』って言われる。
この性格はどうにもならないんだろな…。