近いようで、遠い存在のキミ (完)
「…初めてだった。こんな風に人を好きになったこと」
「………え?」
「ずっと夢だったこの仕事を始めて、毎日が必死で、ここまで来れたことは幸運なことで。演じることを諦めていった人たくさん見てきたし…。その反面で、迷うことが多くなった」
ゆうくんはゆっくり、確かめるように話す。
「自分が何なのか、わからなくなった。結構役に入り込むタイプだから、オレ自身の居場所がわからない。演じることは楽しいのに、オレの意思はどこにあるのかって思うようになって…。役者なんてやめよう、って思ったこともあった。そんな時だったんだ、オレ自身をちゃんと見てくれる人が現れたと思ったのは」
うつむいて話していたゆうくんが私の方を向いた。
「ハルカじゃなくて、悠として見てくれる人」
「――…」
私はゆうくんから目を離せない。