ランデヴー II
何だか、嫌だった。


倉橋君が、どんどん知らない人になっていくようで。


それを望んでいるのは……忘れたいと思っているのは、他でもない自分のはずなのに。


きゅぅと胸を締め付けられるような感情。
私の意思とは裏腹に、それは勝手に胸の奥から沸いてくるのだ。



「悪い、遅くなった」


突然背後からそう声をかけられ、一瞬ビクリと肩が震えた。


一気に現実に引き戻された気がして、目をパチパチと瞬かせる。



どれ程の間、こうして外を眺めていただろう。


時計を見ると、お店に入ってから既に30分が経っていた。


手元のカフェオレは、とっくに冷めている。



「ゆかり?」


「あ、うん。大丈夫。行こう?」


「あぁ……時間ないから急ごう」


慌てたように立ち上がる私に訝しげな視線を向けながらも、賢治は来た方向へと歩いて行った。


その後ろを歩きながら、2人の姿を頭の中から追い出す。
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