ランデヴー II
「どうしたの?」


そう尋ねてみたが、倉橋君の足が動く気配はない。


遅い時間に少し焦っていた私は、無理矢理その腕を掴んで引っ張るようにした。



「倉橋君?」


名前を呼んで腕を揺らすと、彼はそんな私の手を突然振り解いた。


そしてまるで正気を取り戻したかのように、呟くのだ。



「俺……家には帰りませんから……」


「……え?」


目を見開いて驚く私を他所に、彼はふらふらと1人で反対方向へと歩いて行く。



「ちょっと待って、倉橋君?」


その方向には高級住宅やマンションがあるだけで、こんな時間に向かうような場所ではない。


それに家に帰らないなんて……じゃぁ彼は一体どうしたいというのだろうか。


酔っているが故の、戯言?



「待ってってば!」


ここまで来たら、もうこのまま放っておくことなんてできない。


私は倉橋君の心理が全くわからずに若干うろたえながらも、とにかく後ろからグイッと彼の腕に手をかけた。
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