ランデヴー II
この期に及んで一体何を言ってるんだ、この男は。


こんな所に放って帰れるはずもないのに。



「あのねぇ、このまま倉橋君を置いて行けるはずないでしょう? 送るから。立って?」


言い聞かせるように肩を揺するが、倉橋君は唇をキュッと結び、ふるふると首を振って動かない。



途方に暮れた私は、「はぁ……」と溜息を吐いた。


このままではそのうち終電がなくなり、共倒れだ。



「倉橋君……困らせないでよ……」


「…………」


小さく呟いてみるも、何の反応もない。


全く……『頑固で融通が効かない』のはどっちよ……。



以前倉橋君にぶつけられた言葉が、鮮明に頭の中に蘇ってきた。


意外と根に持っている自分に気付かされ、再び溜息を吐く。



すぐそこの大通りは楽しげな団体や駅へと急ぐ人達の群れで騒がしく、この静かな横道とは違ってまるで別世界のようだ。


私はしばらくそんな風景をぼんやりと眺めながら、倉橋君と一緒にしゃがみ込んでいた。
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