ランデヴー II
家に帰りたくない訳が、何かあるのだろうか……。


じりじりと時間だけが過ぎていく。


気を揉みながらどうしたものかと思案していると、不意にスッと風が動く気配がした。



「どこか、ホテルに、泊まりますから……」


見ると倉橋君がよろめきながら立ち上がり、再び大通りに向かっておぼつかない足取りで歩き出す所だった。


私は慌てて立ち上がり、そんな彼の後ろを追いかける。



「待って! そんなに酔ってたら心配だから!」


1人になんて……しておけない。


私の耳にはさっき彼が言った『寂しい』という言葉が離れずに、まだ残っている。


きっとそれは、彼の本音なんだ。



素面だったらきっと、絶対に私にそんなこと言わないだろう。


酔ってるから言えたんだって、わかってる。


でも……聞いてしまったからには、それを無視することなんてできない。


なかったことになんて、できるはずがない。
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