ランデヴー II
私は必死で倉橋君に向かって手を伸ばすと、両手でその腕をギュッと握り締めた。


そして戸惑った様子の彼の腕をぐいぐいと引っ張りながら、駅の方へと向かって歩き出す。



もう、立ち止まらせたりなんかしない。


『関係ない』なんて、言わせない。



倉橋君からは鈍い抵抗を感じたが、私は構わずその腕を引いた。


少し気が立っていたのかもしれない。



「坂下さん、俺、ホテルを……」


「わかったから。家には帰らなくていい。その代わり、ついてきて」


チラリと視線を向けて有無を言わせぬ厳しい口調で言い放つと、倉橋君は少し驚いた様子で大人しく後ろをついてきた。


だが同時にそこからは安堵した表情が見て取れて、「これでいいんだ、間違ってない」と勇気を得る。



私は緩慢な動きの倉橋君を連れて、最終電車に乗った。


衝動的にこんなことをして、後から後悔するかもしれない。


本当はこんなことしてはいけないと、わかってる。
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