ランデヴー II
「ちょっと話したいんだけど。いいか?」


そう言われ、私は躊躇った。



もうすぐ倉橋君がやって来る。


彼の為にいそいそと料理をしていたはずだ。



しばし考えた挙げ句に「ごめん」と断ろうとしたその時。


荒いモニターの画像越しに、賢治の体が濡れていることに気付いた。


目を懲らすと髪の毛が水気を吸って、その端正な顔に貼り付いている。



雨、降ってきたんだ……。



確かに、夜は雨が降るとニュースで言っていた。


賢治は普段天気予報に無頓着な人だから、きっと傘を持つことなんて微塵も考えなかったに違いない。


そう思うと、無碍に帰すことができなくなった。



付き合っていた頃は、天気予報を教えてあげるのは私の役目だった。


雨が降りそうな時は、私が「傘を持って出てね」と知らせていた。
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