ランデヴー II





玄関の扉を開けると、髪の毛をたっぷりの水で濡らした賢治が立っていた。


春物の黒いジャケットも、足元の革靴も水を吸ってしまっている。



「傘、持って出なかったの?」


「あぁ……忘れた」


私は賢治を家の中に招き入れると、持っていたタオルを手渡した。



「体、拭いて? 風邪引いちゃう」


「サンキュ……」


賢治はそう言うと、白いタオルで髪の毛を拭き始めた。


そして、家の中に上がる私の後ろをついてくる。



どうしよう……賢治を家に上げてしまった。


もうすぐ倉橋君が来るというのに。



心の中ではどぎまぎとそんな心配をしながらも、今目の前にいる賢治のことも心配だ。


ジャケットを脱がせてハンガーに掛けると、ポタポタと水が滴ってきた。
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